2006年9月のお手入れ品

構想と現実

図案と絽差し

“絽刺し” 聞きなれない言葉と思いますが、夏物ではなく絽の生地に日本刺繍を施したもので、江戸時代には、公家などの上流階級に流行していました。

今回は戴いた絽刺しの作品を、アップリケのように生地に縫い付けて、黒地の訪問着にしてみたいとのご希望です。
全部で8枚の裂、柄も配色もさまざまですが、胸と袖を含めてその位置と高さ、組み合わせは、どのようにしたら自然でしょうか。

いきなり生地に縫い留めるのは、あまりにリスクが多すぎるので、まず黒い紙に身巾に合わせて線を引き、裂を仮止めしてみました。

周りに白く見えるのが、土台になる絽の生地です。微妙に変化を付けたつもりですが、さて、どうなるでしょう。

加工後

黒地絽差し訪問着

柄の配置を考える時、まず思い浮かべるのは、私の師匠とも言うべき、名古屋にある呉服店の先代主人の姿です。

20代の5年間の修業の間、私は本当に多くのことを教わりました。そして、誂えの柄の配置に関しては「衣桁に掛けるのではない、身にまとう姿を考えろ」と、繰り返し繰り返し言っていました。 それは、展示会等で大きな衣装掛けに、あたかも1枚の絵のように立派な柄が描いてある着物が、全て、身に着けた時も引き立つというわけではないということなのです。

案山子ではないのですから、両袖は広げて歩きません。また、前身頃と後ろ身頃は同時に見えず、胸と膝の間には帯が入り、ヒップの辺りはなるべく目立たなくしたい。そして、前から回って見た時に流れが感じられる等々、当たり前のようなことですが押さえるべきポイントは沢山あります。

限られた条件の中で優先順位をつけて、柄付けを進めていく作業は、あれこれ悩むと頭の中で柄がぐるぐる駆け巡ることもしばしばです。しかし、右のように出来上がればそれも霧散し、今は亡き主人に対しての感謝の気持ちだけが残るのです。

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