白地の着物の場合、時間の経過や保存状態によって黄ばんでくることがあります。
小さいものはシミ抜きで対処できますが、湿気等によって広範囲に広がっている時はそれも困難で、残された方法は地色全体に色をかけること(色揚げ)となります。
左の写真は、薄紫の小さな花をバックに垣根の模様の付下げ訪問着です。黄ばみが広がっており、このままではお召しになれないでしょう。
柄を伏せての色揚げをご希望でしたが、この場合は上からかける色と背景の小花を調和させない限り、鑑賞に堪える着物にはなりそうにありません。
他店ではほとんどが、柄を伏せてご希望の色を引くイチかバチかの一発勝負で相当のリスクがあります。私はとてもそんなやり方は出来ません。さて、お客様の信頼を保つ方法とは・・・。
今回の方法は 「試し染め」です。
この着物は腰揚げや袖の縫い込みがなく、生地を取ることが出来ません。また、衿丈も短くて掛衿の下を抜く必要がありました。そこで職人さんに頼み込み、抜いた20センチ程の生地で薄紫四色の試験染めをしてみたのです。
私も十分考えたつもりでしたが、お客様のご希望の色では薄すぎて、背景の小花とちぐはぐ。再度やり直しを経て、ようやく職人さんの提案した濃いめの色に巡り会いました。
"地色は薄め"という一般的な染めのセオリーとは反対でしたが、仕上がりは紫濃淡の地紋のある上品な訪問着になり、ご満足を頂きました。完成まで丸一年、気の長い仕事です。
今年もお引立て戴きまして、ありがとうございました。お陰様で海外の方にもご覧いただいております。
来年も、より充実したページになるようがんばってまいります。皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。
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