お客様がお召しになってから25年が過ぎ、いよいよその振袖にお嬢様が袖を通すこととなりました。保存状態は極めてよく、どこも傷んでいません。しかしながら、ひとつだけ気になっていることがおありでした。それはお客様がお友達の披露宴の受付で付けてしまった衿の墨のしみ。
「たぶん無理と思うから、墨の上に牡丹の葉でも描いて」というご依頼を受けて、まずお尋ねしたことは「手を加えてありませんか?」
付いたままの状態と聞き、一筋の光明がさすと同時に職人の顔が浮かびました。
しかしハードルはかなり高いです。
職人さんは一目見るなり、全く同じことを私に尋ねました。「染み抜きに出してありませんか?」 そして、「さわってなければ取れるでしょう」とあっさり答えました。
それから2週間後、仕上がった衿を見て驚きました。どこにも痕跡がありません。お客様も「どこに付いていましたっけ?」と私に尋ねるありさま。
その後、解いて洗い張りを行い、寸法を全体に大きく仕立て直しました。
そして納品の日、文庫紙を開けた瞬間に25年間のわだかまりは忽然と消え去り、と同時に、この仕事にたずさわっていてよかったとしみじみ思いました。
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