寒かった冬もようやく通り過ぎ、あちこちに春の兆しを感じるようになりました。着物の世界も春を題材にしたものに変わります。
さて左の写真は30年ほど前、私の父が別誂えでご用命を受けた訪問着です。後ろ身頃に柄がないのは付け忘れたわけではなく、お客様のたってのご希望でした。
しかしながら時が過ぎ、この訪問着も御親戚の方が袖を通すこととなりましたが、後ろから見ると無地にしか見えないことが残念でならないとのことで、後身頃に柄を足すこととなりました。
でも、ご覧のように地色は大変に濃い茶色です。果たして上手く柄を乗せることができるのでしょうか。もし、取ってつけたようになったらどうしましょう。
同じ模様を付けるとしても、その大きさは?高さは?接続をつけるかつけないか? 等々、決めることはたくさんあります。しかし、こげ茶色の上に描き足すわけですから、寸分違わぬようにするのは不可能に近いと予想し、あえて接続を付けずに左後ろ身の真ん中あたりで留めました。
さすがの私も、完成まではちょっと心配しましたが、出来上がりを見て仰天。模様の中はそのタッチまで瓜二つ。異なるのは、囲んでいる雲取りの色のみでした。
幸いにも人の記憶は意外とあいまいで、この着物を身にまとうと、間に無地場があるだけで違和感がなくなるから不思議。
眠っていた大地から春の草が芽生えたようになりました。
まずは 一件落着でしょうか。
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