今月は夏休みを頂きまして、リフォームのページは休ませて頂きます。
忘れもしません。数年前の9月下旬のある日、水曜日の午後6時過ぎでした。長年お引き立て頂いているお客様から、1本の電話がありました。「日曜日の朝までに、単衣の喪服と喪服用絽帯を誂えてもらえないでしょうか」
一瞬私は貸衣装と勘違いし、思わず聞き返したほどです。
土曜日の夕方に納品すると仮定して、単衣用喪服生地及び絽喪服用帯の手配、手描き紋入れ、着物と帯の仕立てを正味2日間で完了する必要があります。
「そんなの無理」とお断りするのは簡単ですが、お客様も無理を十分承知で電話をかけ てこられたわけですから、よほどのご事情があったのでしょう。 頭の中では、何を先に」という優先順位が、グルグルと駆け巡ります。
その夜、時間外なのに懇意の問屋さんから生地を受け取り、帯職人さんにも何とか頼みこみました。ところが難問発生。紋が大変珍しく、両親も私も初めて聞くものでした。その上、紋の外側の「丸の縁取り」がありません。
長くお世話になっている紋匠に尋ねると「どんな紋でも大丈夫です。ただ丸があれば一晩で仕上げるが、丸なしはとても無理」との返事。
喪服の生地は紋の入る所が白く抜けているため、縁を消す黒の色を合わせるのに時間が必要なのです。仕方なくお客様にご了解いただき、その日の深夜、紋屋さんに依頼に行くと、帰り際に「やっぱり、丸が無いほうがいいですよね」とのお言葉。もちろんそ
うですが、とても無理は言えません。
翌朝受け取りにいくと、驚くかな仕上がりは希望通りの丸無しで、その上、縁の仕上げも完ぺきです。思わず頭が下がりました。そして入念に仕立て、土曜の夕方にお納めしました。
お客様に喜んでいただいたことは 言うまでもありません。しかし今回の仕事は、日頃の信頼関係が全てといっても過言ではなく、普段、職人さんを泣かしていては、とても無理な話 です。
職人の魂と意地を感じた2日間でした。
呉服三輪屋 〒164-0012 東京都中野区本町2-54-17
代表者 三輪 一夫
Tel&Fax03-3372-0573
mail@gofukumiwaya.com