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空前絶後

私事ながら、この仕事に従事して丸３５年が過ぎました。
振り返るとあっという間でしたが、お陰様でたくさんの良い品物にめぐり会うことができました。本当に幸せなことです。

さて今回の品物は、綸子地薄紅藤色の手綱地紋に染めと刺繍、そして箔で文福茶釜の綱渡りを描いた丸帯です。 生地全体にカビによる変色が出ており、前帯部分には食べこぼしの黄変もありました。

この帯は製作から軽く半世紀は経過していると思われますが、何という素晴らしい加工でしょう。
たぬきの動き、毛並み、綱のたわみ具合、全てが生きています。手間と時間をかけた洗いで見違えるような仕上がりとなりました。

当時は芝居見物に合わせて、着物を誂えた方も多くいらしたようです。 新年に、華やかなりし時代の香りを楽しんでいただければ幸いです。