TOP>バックナンバー>2023年10月

柄の欠落

着物や洋服を誤って裂いてしまった時、それを復元する「かけはぎ」の技術が流行った時代がありました。

縫い込み部分より糸を取り出し、組織を新たに織ってつなげる。そんな優れた技も最近はとんと見かけなくなりました。

無地に近い生地の場合は、かけはぎも有効でしょうが、柄のある場合は別の対処法が必要です。

写真は、事情があって上下に分かれた布を、なんとしても復活させたいというご依頼です。ここまで書くと、読者の方は大体察しがつくと思うのですが、繋いだ縫い代分だけ柄が欠落しています。

いかにも不自然な模様です。さて、どうしましょうか。

加工後

今回は、お母様が振袖を切って訪問着にしたものを、袖を繋いで成人式にお嬢様がお召しになるという雄大な計画です。

最小限の縫いしろでつなぎ、そのまま縫い目を刺繍でカバーというのも芸がありません。

そこで、少し離れたら切ってあることを忘れる、そんな技術にこだわりました。これが自然ならば、上からの刺繍でもう無敵です。

マスコミに大きく出る訳でもなく、名人王子ともてはやされることも無く、きわめて地味な職人さんです。しかしその技は国内屈指で、今回表彰を受けたのでちょっとご紹介しました。
、 おめでとうございます。