2025年5月のお手入れ品

刺繍のセオリー

露芝模様振袖の外れている銀糸刺繍

これは薄紅藤色つゆ芝模様振袖の左胸部分です。成人式にお母様の品をお嬢様がお召しになるのですが、輪郭の銀駒糸刺繍が外れています。

当初は部分的に留め直してほしいとのご依頼でした。もう一枚振袖をお持ちなので、当日着るかどうか分からないしと。

350年前から続く日本橋の老舗の品物だけあり、銀糸一本に見えるこの部分も細い糸で3重に刺繍、上前部分はなんと6重に括ってボリュームを出しています。

さて当店は、ご意向の通りに部分補修を進めていくでしょうか。
それとも・・・・・。

加工後

露芝輪郭の銀駒糸刺繍

一般的にはお客様のご意向を尊重し、表地を部分的に解いて留め直す加工を施すでしょう。しかし私は、長く父親と仕事を共にしていたので、それを踏襲して違うご提案をしました。

というのは他の部分の銀糸刺繍も、見かけは留まっている様に見えていますが実は同様に全て弱っていて、外れるのは時間の問題なのです。加えて経年で表面もくすんできており、同じ太さの新しい銀糸で同じ位置に刺繍をするのが最善と判断し、丁寧にご説明しました。

部分補修をしたものの式の当日に再び他の刺繍が外れ、三輪屋の信用が一気に崩れ去ることは、想像しただけでも恐ろしい事です。

今回は仕立て直し+刺繍という大規模修復のタイミングと判断しました。これで次の世代まで引き継ぐことが出来るでしょう。

 

呉服三輪屋 〒164-0012 東京都中野区本町2-54-17
代表者   三輪 一夫

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